「この指とまれ!」とさけんでみたなら、きっとだれかが、その指にとまってくれる。
はじめて声にだした「この指とまれ!」が、おもいのほか、かぼそくて、だれも気づかなかったとしても、すでに投じたその一石は、波紋となって水面をゆるがしている。あなたが、まだしりもしない、対岸の世界の住人か、あるいは、水面下の世界の住人は、その一石や波紋に気がついている。
おおきな声で、「この指とまれ!」とさけんでみれば、あなたは、ここちよさを感じるはずだ。そして、今夜は、いつもとはちがう不眠が、あなたをおそうかもしれない。夜もねむれぬ、その胸の鼓動は、あなたのやさしさのあかしであり、勇気の萌芽なのだ。
しかしながら、もしかすると、「この指とまれ!」とさけんでみても、誰もみむきもしてくれないかもしれない。
そんなこと、気にするな。
おおくのひとが、みぎの顔、ひだりの顔を気にしているだけなのだ。
そんなちっぽけなところからは、とびだして、街へでよう。
街には、ゆかいなひとびとが、実はたくさん生息している。
かれらは、あなたの胸にひめたる勇気を、かならず、みとめてくれるだろう。
社会は所与のものではない。
社会は、ひとりひとりの人間のお手製のものだ。
あなただって、社会をつくる一員なのだ。
社会が不可解なのは、あるいは、あなたが声をださないからかもしれない。
「この指とまれ!」と、声をだしたとき、きっと、あなたは社会のことを、いまよりも、ほんのすこし、わかることができるだろう。