午後9時ころ、残業おわりの帰宅途中に、腹ペコのなか、財布をひろった。
腹ペコゆえに食欲がまさり、悪魔(金銭欲)がささやく声はきこえなかった。逆に天使(良心)が「しゃーない、交番にとどけてあげるか」とかたりかけた。
時系列は前後するが、はじめ財布をみつけたとき、なかをあけて、免許証でもあれば、電話をしてあげようかとおもった。だけど、なかをみてみるのも、なんかイヤだなーとおもったのでやめた。もし、ちょうど、紛失したことに気がついたもちぬしとバッタリあって、うたがわれたりしたら、すごくイヤだ。
イヤだなーとおもったあとに、天使の声がきこえたのだ。
どこか交番はなかったかなあとおもいめぐらしたら、ちかくにあったことをおもいだしたので、とどけてみることにした。まあ、とおくても、とどけただろうとおもう。
自転車のカゴに、ポイッとその財布をほうりこんだけれど、なぜだか、多少泥棒をしたようなイヤな感じがあった。
いざ交番へ。
交番についてみると、誰もいない。「すいませーん」と声をだしても、奥からは、だれもでてこない。
電話がおいてあり、そばには「おこまりのかたは、505へ連絡してください~うんぬん」というような掲示物があった。
電話をしてみると、声質的に年配だろうと想像できる警察官が応答した。財布をひろった旨をつたえると、「おいそぎですか?お礼だったり、権利関係、ひろわれたかたの所有権の問題などもありますので、おまちいただけるのなら、おまちください」と、その警察官はいわれた。
ぼくは腹ペコだったけれど、よい社会見学だとおもったのと、10分くらいでつくといわれたので、まつことにした。
交番のなかのイスにこしかけて、しばらくまっていると、警察官がかえってきた。わかい男性だ。
いろいろ手続きがあるみたいだったけれど、ふたつの選択肢をあたえられた。ひとつは、俗にいうひろった額の1割をもらうだとかのために身分証明および手続きをすること。もうひとつは、善意のひととして、名前をあかさずに、手続きもせずかえること。
どっちにしようか、まよったけれど、警察官が財布のなかみをみたら、1000円とちょっとしかはいっていなかったので、善意のひととなることにきめた。
おもしろかったのは、それでもなお、最後に、警察官から「もちぬしが、もしかしたら、感謝の気もちをつたえたり、お礼をしたい場合もありますので、名前と連絡先だけでも」といわれたことだ。
ぼくは、「連絡先をおしえて、トラブルとか、なにか面倒なことって、おこるケースとかってありますか?」ときいたのだけど、わかい警察官は、にがい顔をしながら、「まあ、連絡先が相手のひとにしられてしまうということくらいです」と、こたえられた。ぼくは、「まあ、1000円しかはいっていないし、とどけたということだけにしておきます。もっと大金がはいっていたら、手続きしたんやけど。」といって、善意のひととして、つらぬくことにした。
まあ、よい社会見学をできて、たのしかったのだけど、出会いという経験に積極的なひとは、あるいは手続きをしたり、連絡先をのこしたりするのかなあ、などとおもいながら、交番をあとにした。