大学職員の仕事、進学相談について。

進学相談という業務がある。

相談とはいうが、大学のことや、大学進学についての質問をうけつけて、説明するだけのことである。

ぼくは、この仕事をあまりきらっておらず、むしろ、たのしんでいるきらいがある。

この仕事の大半は、質問に対して、説明用の資料をもちいて、「それについては、こういうことです。」とこたえていくだけのことなのであるが、こまったことに、ウソをつかなければならないときがある。ウソというと、きこえがわるいが、つまり、説明用の資料からはずれた質問についての穴うめのことである。

こたえにくい質問が、やっぱりでてくる。今日も、こたえにくい質問があった。

「留学にいくことは、意味がありますか?」
これは、高3の男子受験生からの質問である。英検2級をもっているらしく、勉強熱心なひとであった。

留学にいったことのないぼくには、こたえられないことなので、ウソをついた。

「正直にいいますが、ぼくは留学したことがないので、よくわかりません。せっかく着席してくれたので、それをわかってもらったうえで、ぼく個人がおもうところをいおうとおもいます。自分が留学してみたいとおもうのなら、いくとよいのではないでしょうか。まなぶことにかぎらず、なんでもそうですが、気分がのっていないことをやっても、みのりはすくないとおもいます。キミはいま、英語の勉強を十分できているようなので、留学にいかずとも、できることはたくさんあるとおもいますが。ただ、おとしどころとしては、国際学部に入学すれば、カリキュラムに短期留学がくみこまれているので、それをやってみてから、きめればよいのではないでしょうか。ぼくからは以上ですが、このあと、留学にくわしいひとを紹介します。」

もうひとつ、「就職率はどのくらいでしょうか?就職はできますか?」という質問があった。これは、母娘のふたり組からの質問である。母親からの質問がおおく、娘、つまり、受験生本人は、ひかえめに、こくりとうなづくことがおおかった。

これも説明に窮したので、ウソをついた。

「新設の学部なので、まだ就職実績がありませんので、なんともいえません。資料のとおり、大学全体で、就職率何%とありますし、カリキュラムに就職関係の授業をくみこんでいますので、過度にご心配する必要はないかとおもいます。つぎにいうことは、わたし個人のおもうところなのですが、就職するということについては、学校で勉強することとは、またちがう資質といいますか、ちからが必要になってくるとおもうんです。コミュニケーション能力といわれるものだったり、人間関係に積極的に参加できるかどうかなど。また、その他、家庭環境からも影響はうけますでしょうし、そのときの精神状態など、いろんなことが関係してくるとおもうんです。大学としては、こういうものを訓練できる機会を用意していますので、その点は、安心していただいてよいかとおもいます。なので、ご心配されるのでしたら、就職率などはかんがえずに、できるだけはやくに、社会に参加するという経験をおおくもってもらうことをかんがえるのが、よいのではないでしょうか。たとえば、年齢のちがうひとたちとのかかわりあいがある場に参加するなど。」

どちらの場合も、相手は真剣な表情で、ぼくの話をきき、ふかくうなづくこともあった。

かれらは、ぼくが一生懸命に、ことばをついやして、なんとかこたえようとして説明する態度に、誠実さのような、なにかを感じとり、ふかくうなづいたのだということを、ぼくはしっている。

しかし、ぼくのいっていることは、ことばかずがおおいだけで、ようは、「自分でかんがえて、やってくれ」ということなのである。かれらは、ぼくのいっていることをウソだと指摘しなかったが、こころのうちでは、どのようにおもっていたのだろう。

相談がおわり、離席されるときには、かれらは、「ご丁寧に、ありがとうございました。」と、あかるい表情でいってくれた。

ぼくのウソも、すこしは、役にたったのだと、おもいこむしかない。